Arnaub Chatterjeeが語る:AI、患者リクルート、リアルワールドデータ
ようこそ、Clinical Minds の「Innovator Insights Corner」へ。ここでは、メディデータのポッドキャスト 「from Dreamers to Disruptors」 に登場するゲストたちが語る、魅力的なストーリーや視点、そして未来への予測をお届けします。この番組は、ライフサイエンス領域におけるイノベーションと、その最前線を切り拓くビジョナリーたちに迫るものです。
データは臨床試験の基盤であり、試験のあらゆる工程、そしてその先にまで流れ続けるものです。患者が提供し、施設が収集し、研究者が未来の治療法を設計するために活用します。臨床研究や試験デザインにおける重要な課題のひとつは、AIをはじめとする新たなテクノロジーを活用し、データを収集・移動・変換・分析するための、より効率的な新しい方法を構築することです。こうした取り組みを通じて、世界中の患者により良いアウトカムを届けることができます。
DatavantのGM兼プレジデント(ライフサイエンス、エコシステム、公共部門)を務める Arnaub Chatterjeeは、臨床データ管理の第一人者です。民間と公的医療の両領域での経験に加え、ハーバード医科大学で教鞭もとる彼は、倫理的なAI導入やデータの長期的な扱い方が、患者リクルートをどのように改善し、次世代の生命を救う治療法の鍵を解き明かすのかについて、他にはない深い洞察を持っています。
トークナイゼーションとリアルワールドデータ
これまで、臨床試験における患者データは分断された状態で扱われてきました。患者は試験に参加し、試験が終わればそれで関係は途切れ、次に別の研究に関わる際には、ほぼ“ゼロから”の状態に戻ってしまうのです。
製薬企業は、こうした壁を取り払い、患者の医療ジャーニーをより長期的に理解することの価値を認識しています。たとえば、患者の医療履歴、これまで参加してきたさまざまな試験、そして治験終了後の経験やアウトカムなどです。このような縦断的なリアルワールドデータを適切に収集・標準化できれば、単独の治験だけでは得られない深いインサイトが得られ、将来の治験で最適な患者を見つけることにもつながります。
Arnaubは次のように語っています。
「試験をサイロ化された機能単位で考えるのをやめれば、患者の生涯にわたる長期的な視点を持てるようになります。つまり、試験の前後を含め、患者がどのような状態なのかを理解できるようになるのです。」
– Arnaub Chatterjee
「目指すのは、トークナイゼーションのような技術を活用して商業データをより使いやすく、信頼性が高く、そしてインパクトのあるものにすることです。これにより、患者の匿名性を守りながら、重要なリアルワールドデータの利用パターンを臨床エビデンスと結びつけることができます。」とAnthonyは付け加えています。
トークナイゼーションやリアルワールドデータ、過去データの活用によって恩恵を受けるのは、製薬企業だけではありません。臨床試験に参加する患者も、自分たちの情報が最大限に活かされ、同じ病状に苦しむ自分自身や他の患者に新たな希望をもたらすことを望んでいます。データのより広範な共有に同意することで、患者は自分のデータの価値と影響力を、単なる一つの試験にとどまらず、はるかに広い領域へと広げているのです。
患者リクルートの課題
患者リクルートは、臨床試験を成功に導くうえで長年続く大きな課題です。適切な候補者を見つけて参加してもらえなければ、新たな治療法を生み出すために必要なエビデンスを集めることは困難になります。Arnaubはこう述べています。「現在、世界全体でおよそ6,500件の臨床試験が進行しています。しかし、その大半が必要な人数を確保できず、不十分な募集状態に陥るでしょう。」
最適な患者リクルートを実現するには、まず治験に適した患者を特定し、参加に必要な情報やツールを確実に提供し、適切な試験実施施設へとつなぐことが重要です。また、あらゆる人に効果をもたらす治療法を生み出すためには、多様な患者層の参加を促進することも欠かせません。
「患者が研究に参加する機会を得られるようにするには、テクノロジーの課題、データの課題、そして“患者の主体性”に関する課題を克服しなければなりません。」
– Arnaub Chatterjee
臨床試験の体験を効率化することは非常に重要です。しかしAnthonyが指摘するように、「私たちがどれだけ優れたテクノロジーを開発して、治験を簡素化し、患者や施設の負担を減らせると考えていても、実際に施設から返ってくるフィードバックは『また新しいテクノロジーを使わなければならないんですね。スポンサーや試験ごとに標準化されていません』というものが多いのです。」患者リクルートのための技術的ソリューションは、実際に利用する施設スタッフや患者の声を取り入れて設計することが不可欠です。そうすることで初めて、彼らにとって本当の意味で価値のある仕組みになるのです。
AIは患者リクルートの課題に取り組むうえで、非常に強力なツールとしてその価値を発揮しています。膨大なデータを分析して適切な患者集団を特定し、最適な施設とマッチングすることで、治験がリクルート目標を達成し、高品質で信頼性の高い結果を得られるよう支援します。しかし、AIの力を最大限に引き出すためには、慎重かつ責任ある形で活用することが欠かせません。
効果的で倫理的なAI活用
AIは臨床試験を根本から変革する可能性を秘めており、Arnaubはその採用スピードがますます加速し、今後も減速する気配がないと指摘しています。こうした新しいテクノロジーの価値を最大限に引き出すためには、臨床研究においてAIを活用できる機会を見極めるだけでなく、AIの限界を正しく理解し、それをどのように補完・緩和するかを考えることも重要です。
Arnaubは次のように述べています。「データをこれまでにない創造的な方法で活用できるようになってきた今こそ、私たちはいくつか自問しなければならないことがあります。私にとってAIの“ガードレール(安全策)”で最も重要なのは、モデルのキャリブレーションです。つまり、実際に使われるアウトプットが、明らかに偏りのあるデータセットに基づいた“その時点だけの結果”になっていないかという点です。私たちはモデルを継続的に調整し、医療提供者の診療行動や患者集団の変化に合わせてアップデートし続ける必要があります。これが最も重要だと考える理由は、疾患や患者集団のダイナミクスは常に変化し続けるものだからです。」
たとえば、AIは臨床試験に必要な多様な患者集団を特定するうえで、画期的なツールになり得ます。しかしArnaubは、次のような重要な問題点を指摘しています。「臨床研究でAIを活用するにあたっての最大の課題は、AIが学習する“土台となるデータ”そのものが多様性に欠けているという点です。過去の臨床試験データには十分な多様性がないため、AIが本来の力を発揮するための基盤が整っていないのです。」
「より賢く成長し続けるアルゴリズムを作りたいのであれば、広範なネットワーク、長期的な同意、フォローアップ、リアルワールドエビデンス、そして治験前後のデータ──こうしたすべてが必要になるのです。」
– Anthony Costello
Arnaubは続けてこう述べています。「治験は患者を募集し、実施し、終了し、そのデータを共有し、AIも継続的に更新していかなければなりません。」私たちが臨床試験やAIツールを洗練させていくうえでは、AIに潜むバイアスの可能性を認識し、それを克服できるようになるまで、どのように向き合うべきかを考える姿勢が求められます。
AIの導入が加速し続けるなか、私たちはAIが吐き出す結果と、その学習に使われたデータに対して慎重であり続ける必要があります。適切な配慮と責任ある活用によって、AIは研究者にとってより良い結果をもたらし、世界中の患者に大きく改善されたアウトカムを届ける、臨床試験の新時代を切り拓くことになるでしょう。
Arnaub Chatterjee と Anthony Costello の対談の全編は、from Dreamers to Disruptors のエピソード4でお聞きいただけます。ライフサイエンス業界がどのように新しいAI時代へ適応しているのか、どのような創造的アプローチでデータを活用しているのか、そして私たちが患者リクルートの課題にどのように正面から取り組んでいるのか──その全貌をご紹介しています。
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