CNS研究:未来のトレンドと臨床試験イノベーション — Brad O’Connorとともに | Dreamers to Disruptorsより

ここでは、Medidataのポッドキャスト『From Dreamers to Disruptors』に登場したゲストたちの魅力的なストーリーや視点、そして未来への展望をご紹介していきます。この番組は、ライフサイエンスにおけるイノベーションと、それを牽引するビジョナリーたちに迫るコンテンツです。
21世紀に入り、心疾患やがんに対する理解は飛躍的に進み、これにより生存率を大きく改善する最先端の治療法が数多く生まれました。その結果として平均寿命が延び、アルツハイマー病やその他の認知症などの中枢神経系(CNS)疾患が、人生の後半に直面する大きな課題として注目されるようになっています。
CNS研究は、比較的まだ初期段階にあり、今後ますます深刻化する世界的課題としての認知症に対し、その早期発見と治療法の確立に向けた臨床研究者の役割がますます重要になっています。
CNS研究の最前線に立つ人物の一人が、CogstateのCEOを20年以上務めるBrad O’Connor氏です。彼は、デジタル認知評価から血液ベースのバイオマーカーに至るまで、最新の検査・治療技術の進歩をリードしてきました。今回、MedidataのCEOであるAnthony CostelloがBrad氏と対談し、CNS研究を形づくるブレークスルーについて語り合いました。
あらゆる人に対応する認知症検査
認知症の評価における大きな課題のひとつは、地域や慣習による大きなばらつきです。血液検査であれば、インディアナでもインドでも基本的な手順は同じですが、認知機能の評価となると、言語や文化、そして検査を行う医療従事者の対応の違いに配慮する必要があります。このため、大規模なCNS領域の臨床試験において、統一されたデータを収集することが非常に困難になります。
「中枢神経系疾患を対象とした臨床試験や認知機能の評価が難しい理由は、20か国、30の言語、100人の異なる臨床医によって実施される検査を、標準化された方法で行おうとしていることにあります。」
– Brad O’Connor
Cogstateは、数十年にわたりユニバーサルな認知機能評価の開発に取り組んできました。初期のテストでは、シンプルなトランプのデッキが使われていました。Brad氏は「異なる言語や文化でも広く理解されているパラダイムだったため、翻訳の必要がなかった」と語ります。こうしたテストは進化を続け、現在ではWebやアプリベースのデジタル認知評価として、クラウドや新しいテクノロジーを活用し、様々なデバイスで統一された結果を提供できるようになっています。
認知機能テストの進化において重要な焦点のひとつが、「誤差の検出と低減」です。ツールの精度を高め、評価を実施する医師に対するトレーニングの質を向上させることで、すべての評価が同じ手法で実施され、ミスや逸脱を検知できるようになります。これにより、テストは継続的に改良され、より正確で信頼性の高い結果が得られるようになります。
早期発見と診断:アルツハイマーへの新たなアプローチ
アルツハイマー病やその他の認知症に対する新しく優れた治療法、そして最終的な治癒の追求はCNS研究の重要な焦点ですが、それだけにとどまりません。より早期に発見・診断できる優れた評価手法の開発も大きな目標のひとつです。こうしたアプローチにより、疾患の根本原因に早期に対処できるようになり、認知機能の低下を遅らせることで、人々が健康に過ごせる期間(Brad氏が“ヘルススパン”と呼ぶ)を延ばすことが可能になります。
中枢神経系疾患に対する理解が進むと同時に、モバイルデバイスや健康指標を計測する個人用センサーの普及が進んでおり、今後は、本人が気づかないような初期症状を検知・警告できる「認知機能のモニタリング」が実現される未来が見え始めています。これにより、より早期の治療介入が可能になります。
「私たちは、こうした認知機能の評価が、コレステロール検査や血圧測定のように一般的な検査になるべきだと考えています。」
– Anthony Costello
「私たちが話しているのは、“パッシブ測定”です。つまり、バックグラウンドで行動の変化をモニタリングし、何か異変があれば気づくという仕組みです」とBrad氏は言います。「たとえば、スマートフォンやスマートウォッチが様々な情報を常時監視していて、『何かおかしいですね。念のため認知機能テストを受けてみませんか?』と促すようなイメージです。アドバイスは『一度お医者さんに相談してみては?』というシンプルなものかもしれません。」
こうした認知機能に対する理解の深化と早期発見が可能になれば、治療や生活習慣のちょっとした見直しを通じて、認知機能の低下を遅らせることができ、私たち全員の「寿命」と「健康寿命」の両方を延ばすことができるのです。
CNSバイオマーカーの台頭
アルツハイマー病の早期発見と診断能力の向上は、患者にとってより良いアウトカムを実現する鍵となります。近年、患者の脳内で起こる神経学的な変化の兆しを示すバイオマーカーの特定において、研究者たちは目覚ましい進歩を遂げています ― それは、症状が現れる遥か以前に検出可能である可能性さえあるのです。
アルツハイマー病における代表的なバイオマーカーのひとつが、脳内に蓄積する「アミロイド斑(プラーク)」です。これらのプラークが増加すると、次第に認知機能に影響を与え、最終的に認知症へと進行します。
「今年の5月、FDAはアルツハイマー病に関連する初のバイオマーカー検査を承認しました。これは血液ベースの検査で、脳内のプラーク量を測定できるものです」とBrad氏は語ります。「これはまさにゲームチェンジャーです。なぜなら、血液を採るだけで脳内で何が起きているのかがわかるようになったからです。」
「ソラネズマブ(Solanezumab )は、アルツハイマー病を対象とした第III相試験における最も注目された失敗例の一つです。この試験が設計・実施された当時は、脳内のアミロイド斑を測定する手段がまだありませんでした。事後解析により、当該試験に参加した患者のおよそ30%がアミロイドを持っていなかったことがわかりました。これでは、試験が成功しなかったのも無理はありません。」
– Brad O’Connor
バイオマーカーによって実現される高精度な検査は、治療法の開発を加速させる大きな支えにもなります。疾患に対する理解が深まることで、臨床試験における変動要因をより的確にコントロールできるようになり、より信頼性の高い試験設計が可能になります。CNS領域の試験が製薬企業にとってリスクの少ないものになれば、試験への取り組みに対するハードルは下がり、投資が増えることで、アルツハイマー病の新たな治療法の開発が進むことにつながります。
「こうして、より的確な判断ができるようになり、実際に何が起きているのか、薬がどう作用しているのかが明確になることで、成功率は確実に上がってきています」とBrad氏は語ります。「成功率が上がれば、それに伴いR&Dへの投資も増えていくのです。」
CNS研究に関する重要な視点や、認知症患者により良いアウトカムをもたらす最先端の取り組みについてさらに深く知りたい方は、BradとAnthonyによる対談を『From Dreamers to Disruptors』エピソード2でぜひお聴きください。
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