パンデミックを越えて ― 分散型臨床試験(DCT)の持続的なインパクト

臨床研究は今、さらに大きな進化の段階を迎えています。何十年もの間、医薬品開発は、対面による治験実施施設での臨床試験を、安全性と有効性のデータを収集する「ゴールドスタンダード」としてきました。しかし現在、デジタルヘルステクノロジーの進展、患者中心のアプローチ、そしてCOVID-19パンデミックによって加速された緊急性を背景に、グローバルな臨床試験のエコシステムは大きく変化しています。このような流れの中で、従来のモデルはシフトし、分散型臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trials)は、パンデミックに対する一時的な代替手段から、現代の治験設計における不可欠な要素へと進化しました。DCTは、治験のアクセス性、効率性、柔軟性を大幅に向上させる可能性を秘めています。
パンデミックがもたらした加速の力
渡航制限、ソーシャルディスタンスの実施、医療体制の逼迫、そして緊急性の低い来院に対応する治験実施施設の限られた余力――こうした要因により、従来型の来院型治験は困難となり、スポンサー企業は新たな手法を模索せざるを得なくなりました。
かつては「あると便利」程度に捉えられていたツールやアプローチが、瞬く間に不可欠な存在へと変わっていったのです。テレメディスン(遠隔診療)、電子的患者報告アウトカム(eCOA)、リモート同意取得、センサーやウェアラブルデバイスといったテクノロジーは、世界的なロックダウンの中でも重要な研究の継続を可能にしました。
この急速なシフトは、本来であれば何年もかけて得られるはずだった教訓を、業界にもたらしました。スポンサー企業は、患者がリモートで治験に問題なく参加できることを実証し、規制当局もこの手法で取得されたデータが、厳格な評価項目データの品質基準を満たしていることを認めました。
この業界全体の気づきは、単にパンデミックという世界的な危機を乗り越える手段となっただけでなく、「臨床研究はどうあるべきか」という考え方そのものを根本から変えたのです。
分散型臨床試験(DCT)の定義
臨床試験における分散型アプローチの急速な導入は、新たな複雑性をもたらし、業界関係者および規制当局の迅速な対応を促しました。こうした状況を受けて、米国食品医薬品局(FDA)は、分散型臨床試験に対する標準的なアプローチを明確化し、一貫性を促進するためのガイダンスを発行しました。米国FDAのガイダンス文書「Conducting Clinical Trials With Decentralized Elements(分散型要素を含む臨床試験の実施)」によれば、分散型臨床試験とは、「従来の治験実施施設以外の場所で、治験関連活動が行われる要素を含む臨床試験」と定義されています。
地理的・物流的な障壁を取り除くことで、分散型臨床試験(DCT)は、より包括的な研究参加を可能にします。これまで、長時間の通院、移動に伴う困難、仕事や介護との両立といった理由で治験への参加が難しかった患者も、より柔軟な選択肢を得られるようになりました²。
この柔軟性の向上は、治験への参加登録の促進だけでなく、継続的な参加の維持にも貢献します。リモートでの参加を希望する患者、対面での来院を希望する患者、あるいはその両方を組み合わせたい患者、それぞれのニーズに対応できるのです。その結果、より多様で代表性のある患者集団が形成され、疾患発症の実世界での分布をより正確に反映するデータが得られます。また、治験体験そのものも、日常生活の現実に即したものとなります。
考え方の根本的な変化
パンデミックによって急激なシフトが求められたものの、治験施設が再開した後も分散型アプローチは姿を消すことはありませんでした。それは、患者と治験施設の双方にとって、その価値が明確であるためです。
柔軟性、利便性、そしてより広いアクセスの実現は、臨床試験エコシステムに関わるすべてのステークホルダーにとって、今なお強く共感され続けています。
現在では、スポンサー企業の多くが、従来型の「来院型」とリモートによる「分散型」を組み合わせたハイブリッド型の試験設計を積極的に取り入れています。このアプローチは、両者の利点を融合したものです。すなわち、複雑な処置には対面での来院を維持しつつ、定期的な確認やデータ収集といった日常的な対応には、リモートでのやり取りや電子的なデータ取得を活用するというものです。
この進化は、分散型の考え方が、もはや“別の選択肢”ではなく、現代の臨床試験設計における基盤として組み込まれていることを示しています。もはや治験は「DCT」か「従来型」かという区別で語られるものではなく、次世代の治験では、患者中心性の向上、施設の効率化、多様性の拡大といった目的を達成するために、さまざまな戦略やテクノロジーを柔軟に組み合わせて設計されるのです。これからの臨床試験は、本質的に適応性に富んだものであり、試験のニーズや目指す患者体験によって形作られていきます。その体験は、決して「一律なやり方」で提供されるのではなく、患者一人ひとりにとって意味のあるかたちで負担を軽減することによって実現されます。たとえば、来院回数の削減、リモートでの関与の選択肢、より包括的な試験デザインなどが含まれます。
分散型臨床試験におけるメディデータのリーダーシップ
分散型臨床試験(DCT)の台頭は、臨床研究の在り方を根本から変えました。DCTは、世界的な危機への一時的な対応策から、患者体験の向上や試験成果の最適化を目指す長期的な戦略へと進化しています。メディデータはこの変革の最前線に立っており、最近では「IDC MarketScape:世界のライフサイエンスR&D向け分散型臨床試験テクノロジーおよびコンサルティングサービスベンダー評価(2024年版)」において、リーダーとして認定されました³。
IDC MarketScapeは次のように評価しています:
「メディデータのDCTプログラムは、拡張性・柔軟性・包括性を備えたテクノロジーソリューションであり、患者参加、データの収集・管理、モニタリングおよび解析、治験薬の供給管理に至るまで、臨床試験の必要に応じて仮想化の範囲を自在に調整できる能力を有しています。」
IDC MarketScapeによる今回の評価は、より患者中心で、アクセスしやすく、柔軟性のある未来に向けて業界を導く、信頼できるパートナーとしてのメディデータの立ち位置を改めて裏付けるものです。メディデータは、COVID-19以前から業界初の分散型臨床試験を主導しており、この進化をけん引してきた長年の経験を有しています。パンデミックによって分散型アプローチの採用は一気に広まりましたが、今やこうした手法は業界の標準となりつつあります。メディデータは引き続き、スポンサー企業による実用的な導入とベストプラクティスの実践を支援し、新たな臨床試験の世界において、確信と明確な指針をもって前進できるようサポートしていきます。
メディデータは、「IDC MarketScape ライフサイエンスR&D向け分散型臨床試験テクノロジーおよびコンサルティングサービス 2024年版ベンダー評価」においてリーダーに選出されました。該当箇所の抜粋をご覧ください。
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参考文献
- U.S. Food and Drug Administration. (2024). Conducting clinical trials with decentralized elements: Guidance for industry, investigators, and other interested parties. https://www.fda.gov/media/167696/download
- CISCRP. (2023). 2023 Perceptions and Insights Study: Participation Experiences. Center for Information and Study on Clinical Research Participation. https://www.ciscrp.org/wp-content/uploads/2023/11/2023PI_Participation-Experiences.pdf
- IDC MarketScape: Worldwide Life Science R&D Decentralized Clinical Trial Technology Solutions and Consulting Services 2024 Vendor Assessment”, by: Nimita Limaye, November 2024, IDC # US52713224
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