
希少疾患は、その定義からして一般的な病気と比べて影響を受ける人の数が少ないとされています。しかし、これらの疾患が世界全体に及ぼす影響は非常に大きく、推定で全世界に3億人もの患者が存在するといわれています¹。これは、がんやHIV/AIDSの患者数を合わせたよりも多い人数です。名前こそ「希少」ですが、その実態は決して稀ではなく、私たちの注目と行動が強く求められています。
これらの数字の裏には、計り知れない困難に直面している実在の人々がいます。希少疾患の70%は小児期に発症し¹、希少疾患を持つ子どもの3人に1人は5歳の誕生日を迎えることができません。希少疾患の影響を受けている子どもや大人たちは、孤立感や限られた医療アクセスとも闘っており、それが身体的・精神的な負担をさらに重くしています。
2月28日に制定されている「希少疾患の日」²は、患者、家族、介護者、研究者、そして支援者たちが「診断と治療への平等なアクセスと進展」という共通の使命のもとに団結するための場を提供します。またこの日は、希少疾患コミュニティが直面する未解決の課題に思いを巡らせ、行動を促す機会でもあります。
希少疾患の診断と治療における課題
希少疾患は、診断や治療が非常に困難です。正しい診断を受けるまでに、患者は平均して6〜8年もの年月を要するといわれています¹。この「診断の旅路」は、多くの場合、誤診や何度も繰り返される医療機関への受診、そして大きなフラストレーションを伴います。
全ゲノム解析のようなゲノム技術の進歩により、より早期かつ正確な診断が可能となり、希望の光が差し込んできました。しかし、これはあくまで解決策の一部にすぎません。次に待ち受けるのは「治療」というステップ――そして、ここでさらに多くの課題が立ちはだかるのです。
現在、希少疾患の95%には承認された治療法が存在しません。研究から治療法の実用化に至るまでの道のりは険しく、高額な開発費用、限られた患者数、そして製薬企業にとってのインセンティブの不足といった多くの障壁が立ちはだかっています。
1983年にアメリカで制定された「オーファンドラッグ法(希少疾病用医薬品法)」は、製薬企業が希少疾患の治療薬を開発するための財政的インセンティブを提供し、この課題に取り組むことを目的としていました。この法律の施行以来、数百種類のオーファンドラッグが承認され³、何百万人もの人々に希望をもたらしてきました。しかしながら、いまだに多くの課題が残されています。
新たな治療法を市場に届けるために不可欠な臨床試験のプロセスは、希少疾患において特有の課題を伴います。患者数が限られているうえ、通院を伴う試験参加の手間が大きいため、特に小児や日常的に介助を必要とされる方にとっては、被験者の募集が非常に困難です。さらに、従来の試験デザインでは、患者がプラセボ群に割り当てられることも多く、命を救う可能性のある治療を受けられないことが、被験者の募集や継続参加をより一層難しくしています。
臨床試験テクノロジーのリーディングカンパニーであるメディデータは、こうした課題の解決に向けて最前線で取り組んでいます。Patient app、バーチャルビジット、電子的同意文書などのリモート技術を活用した分散型臨床試験(DCT)の先駆者として、移動の負担を軽減し、試験への参加をよりシンプルにする取り組みを進めています。加えて、患者中心のワークフローや合成対照群の導入により、希少疾患の研究の在り方を大きく変えつつあります。
たとえば合成対照群は、過去の試験データを匿名化して活用することで、プラセボ群の必要性を排除できます。これにより、試験に参加するすべての患者が治療を受けられる可能性を持ち、必要な被験者数も削減されます。このような革新は、希少疾患の研究において真の「ゲームチェンジャー」となり、新たな治療法への道のりを加速させるとともに、患者やその家族の負担を大きく軽減しています。
さらにメディデータは、「Medidata Research Alliance」を立ち上げました。これは、著名な臨床研究者やキーオピニオンリーダー(KOL)を、アカデミア、非営利団体、ライフサイエンス業界から結集させた科学研究コンソーシアムであり、メディデータのAI技術と臨床試験データに関する専門知識を活用し、革新的な治療法に向けた最先端の研究を推進することを目的としています。
このアライアンスの中心的な使命は、データの力とアカデミアにおける医師・科学者との連携を通じて、患者のための医療ブレークスルーを実現することです。こうしたパートナーシップを通じて、臨床試験データを集約・活用し、そこから得られた知見を実際の臨床現場へとつなげていくことが可能になります。
前進への道:協働とイノベーションによる希望
希少疾患への取り組みには、社会全体の協力が不可欠です。政府、医療提供者、産業界、研究者、患者、そして支援者に至るまで、すべての立場の人々がそれぞれの役割を担っています。
治療戦略におけるイノベーションは、確かな希望をもたらしています。たとえば遺伝子治療の進歩により、遺伝性の希少疾患を持つ患者に新たな可能性が開かれつつあります。これらの画期的な治療法は、遺伝子の根本的な異常を修正する可能性を秘めており、生活の質を大きく向上させるチャンスとなります。しかしながら、これらの治療は非常に高額であることが多く、誰もが手の届く形で治療を受けられるようにするための政策整備が求められています。
もうひとつ重要な焦点は、患者とその介護者の生活の質の向上です。希少疾患とともに生きることは、経済的にも精神的にも大きな負担となり得ます。頻繁な通院や入院、効果的な治療法の欠如などが、患者本人だけでなく家族にも深刻な心理的ストレスをもたらします。介護者は、看護や付き添いのために勤務時間を減らしたり、仕事を辞めたりすることもあり、経済的困難に直面することも少なくありません。こうした課題に対応し、回復力を育むためには、支援体制や地域社会のリソースが欠かせません。
メディデータの希少疾患コミュニティへの取り組みは、単なるテクノロジーの提供にとどまりません。臨床試験の設計段階から患者の声を反映させ、その意見を尊重することで、メディデータは患者中心の研究における新たな基準を築いています。また、生成AIソリューションと世界最大規模の高品質な臨床データへのアクセスを通じて、より迅速かつ効率的な試験の実現を支援しています。2024年には、FDA(米国食品医薬品局)に承認された医薬品の72%がメディデータのプラットフォームを活用しており、こうした取り組みの大きな影響力が示されています。
「希少疾患の日」は、これまでの進歩を振り返ると同時に、今後取り組むべき課題を再認識する日でもあります。希少疾患とともに生きる何百万人もの人々にとって、未来への道は困難と希望の両方に満ちています。私たちが力を合わせることで、希少疾患と向き合う誰ひとりとして、取り残されることのない社会を実現していきましょう。
参考文献
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- Lancet Glob Health 2024; 12: e341.
- https://www.rarediseaseday.org/
- https://www.fda.gov/patients/rare-diseases-fda
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