執筆:カレン・ウッド(メディデータ 患者インサイト・プログラム担当ディレクター)
私は毎日、「私たちが構築するソフトウェアが、画期的な治療法を患者さんに届けるまでの期間を数ヶ月、あるいは数年単位で左右するかもしれない」という想いと共に目覚めます。臨床試験テクノロジーの世界で働く中で、私は「アクティビズム」と「アドボカシー」の深い違いを学びました。この違いを理解することこそが、真に患者さんの役に立つテクノロジーを生み出すための鍵となります。
私たちが向き合っている現実は非常に重いものです。患者や研究者が直面している課題は、しばしば数値化され、システム上の障壁を浮き彫りにします。
「統計的にみると、臨床試験の80%が被験者の組み入れに苦戦しており、参加者にかかる負担は深刻な離脱の一因となっている。その結果、最大30%の被験者が試験を途中で辞めてしまう(途中脱落)」
これらの統計の裏側には、一人の「人間」がいます。私たちのシステムやプロセスが「架け橋」ではなく「障壁」となってしまったがために、治療の選択肢が遅れたり、限られたりしてしまっている人が存在しています。
アクティビズムとアドボカシーの決定的な違い
「アクティビズム」は多くの場合、システムと戦い、圧力や対立を通じて変化を求めることに焦点を当てます。アクティビズムがヘルスケア改革を推進してきた一方で、「アドボカシー」は異なるアプローチをとります。アドボカシーとは、システムの内側から持続可能な変化を生み出すことであり、橋を焼き払うのではなく、築いていくことなのです。

私たちの仕事において、最も効果的な患者アドボカシーは、既存のヘルスケア・エコシステムに「対抗」するのではなく、それと「協働」することで生まれます。研究者、CRC、そして製薬企業。全ステークホルダーが「安全で効果的な治療法を、必要としている患者さんに届ける」という究極のゴールを共有しているからです。
テクノロジーは「障壁」ではなく「架け橋」であるべき
残念ながら、これまでの臨床試験テクノロジーは、患者体験を「後回し」にして構築されることがあまりにも多くありました。歴史的に、研究者にとって効率的なデータ収集を優先するシステムを作ってきた結果、その治験に人生を託している人々に対して、図らずもさらなる負担を強いることになりました。
.テクノロジーにおける真の患者アドボカシーとは、この構図を逆転させることを意味します。つまり、入力フォームが一つ増えること、通院が一回増えること、操作の分かりにくいインターフェースに触れることが、すでに複雑な病状と闘っている人々にとっての「障壁」になるのだという理解に基づいて設計することです。
「新しい機能がデータ収集をどれだけ効率化するかを問う前に、それが患者さんの日常生活にどう影響するかを、まず問うべきである」
コードの一行一行に「共感」を込める
共感に基づいたテクノロジーを構築するには、ペルソナやデータポイントの先にある、一人ひとりの人間ドラマに目を向ける必要があります。タブレットの操作に苦労している67歳のがん患者は、単なる「デジタル・リテラシーの低いユーザー」ではありません。命がけで病と闘っている人であり、テクノロジーとまで闘う必要などないはずの人なのです。

この共感は、「患者負担の軽減」という具体的な形で現れます。
- デジタル・アクセシビリティ: 全員が最新のスマートフォンを持っているわけではありません。古いデバイスでも動作する「モバイル・ファースト」のプラットフォームを設計します。また、操作の習得(トレーニング)を必要としない直感的なインターフェースの設計に注力します。患者は病気に向き合うことに神経を注いでいるので、新しいシステムを学ぶ余裕などありません。現在、多くの企業がデジタル・アクセシビリティを重要な指標(メトリクス)としています。
- ケアギバー(介護者)への支援: 多くの患者が家族のサポートに頼っていることを十分に理解したうえで、複数のユーザー権限に対応したプラットフォームを提供します。ケアギバーが内容を理解し、適切に行動できるような明確な情報を提供します。
- 貴重な時間を無駄にしない: 重複するデータ入力を排除し、不必要な通院を減らします。患者の生活を邪魔するのではなく、生活に寄り添った柔軟なスケジューリング・システムを構築します。
ドミノ倒しのような波及効果:患者中心がすべての人を救う
あらゆることに配慮したテクノロジー設計を通じて、真にペイジェントアドボケイトとなったとき、その恩恵は全員にもたらされます。この患者中心のアプローチは、臨床研究のエコシステム全体に大きな共感を生む触媒となります。
数値化できるメリットは、試験構造のいたるところに現れます:
- 治験実施施設にとっては、患者がスケジュールを容易に管理でき、有益なリマインダーを受け取れるため、患者が来院していない事態を減らすことができる。
- 求められている内容とその重要性を患者自身がより深く理解することで、データ品質が向上します。
- 治験参加における患者体験の向上により、ポジティブな印象が広がり被験者リクルーティングにもよい結果をもたらします。

「真に重要なこと」をはかる
従来の臨床試験の指標は、以下のような「効率性」に重きを置いてきました。
- 被験者登録(エンロールメント)の速さ
- データの質
- 被験者一人あたりのコスト
もちろんこれらも重要ですが、アドボカシーを推進するテクノロジー企業は、視点を変えなければなりません。私たちは以下のような「患者にとっての成功指標」を測定する必要があります。
- 患者満足度
- デジタル・アクセシビリティ
- 長期的なエンゲージメント(継続性)

私たちのテクノロジーが、真に患者の負担を「軽減」しているのか、あるいは単に負担の場所を「移し替えている」だけなのかを、能動的に調査する必要があります。そのためには、設計段階から患者さんに関わってもらい、フィードバック・ループを作る協働作業が必要です。また、ステークホルダーが患者体験を複雑にするような機能の導入を試みる場合はそれに異を唱える「社内でのアドボカシー」も求められます。
これからの道筋
「私たちが構築するすべての機能、設計するすべてのインターフェース、作りあげるすべての統合は、より良い患者アウトカムのためにアドボカシーを行うチャンスとなります。これは単に臨床試験を効率化することではなく、より『人間的なもの』にすることを意味します」
臨床試験の未来は、「最も効率的なテクノロジーとは、患者が実際に使いたいと思うものである」と認識することにあります。真の共感を持って開発に臨むとき、重要な問いは「どうすればプロセスを効率化できるか?」から、「どうすれば、今日という日のこの人の歩みを少しでも楽にできるか?」へと変わります。
それが、「単なるツール」を作るか「架け橋」を築くかの違いです。それこそがアクティビズムを超えたアドボカシーの本質であり、臨床試験の中心にいる「人間」にテクノロジーを奉仕させるための鍵なのです。
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